の二人の組合仲間が、村にも響いて来る時代のうつり代りで一方は上り、一方は下る、その不安定な推移の間で自分たち一家が汗水をたらし、じりりじりりと競売から家をも救いはじめていることを思い、おさやは思わず坐り直して皸《あかぎれ》のある手を深く襟元にさし入れた。
煉炭火鉢をさし挾んで、重蔵に気押されるなりに坂口は抵抗している。
「あんたが、あのとき千円出さなんだからあかんのや。わしが五百円、あんたが千円出したら、利だけはちゃんとまわすと云うのに、きかなんだからさっぱりあかん」
「わしは、株という名のつくもんは大根の株でも気にいらん。株にすてる金があったら、女子にすてる方がなんぼかええ。おなごならすてる金だけの愛想はまきよる」
「株ちゅうものは、儲かるように出来《でけ》ちょる。そんでなくて政府が許しとくものかな」
「そんならなんで坂口はんは損ばかりしといでるんじゃ。若い頃、横浜でチーハーにかかりよって、わしは懲りちょる。飯も食えんようになりよった。株はいかん! こっちに二百円儲けた者があれば、きッとどっかにそれだけ損しちょる者がある。畑なら何がないようになっても、食うてだけはゆける」
体のが
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