っちりとした気もがっちりとした地主の爺さんと、肩のすぼけた、気もすぼけた地主の爺さんとは、両方とも譲らず、その執拗さで却って二人ながらに迫っている老耄《ろうもう》を思わせるばかりに株がいい、土地がいいと諍っている。きいているおさやの家には土地もなければ、株もない。
 三時の市況をラジオできいてから、やっと坂口は店先から出て行った。
 おさやが、
「――どうどす、この頃は――嫁はんやっぱり卵もって来はりますか?」
と、笑いながら訊いた。
「来よります」
 白い瀬戸ものの歯の上で唇をすぼめるような恰好にして重蔵が答えた。
「せんぐり持って来よる。それにおとといから待遇がぐんと違って来た。風呂がわくと、先ず、お父はん、お入りませと云うて来るようになりよった、ハハハハハハ」
 その笑いかたには、隣りの座敷にいるお縫が思わず注意をひかれたほど棘々《とげとげ》しさがあった。
 重蔵には実の子がなくて、夫婦養子をしてある。年より夫婦は経済をきちんと分けて暮しているのであったが、或る日嫁がうちの鶏の生んだ卵を重蔵のところへもって来た。うちで生んだ卵でも、いくつと数えたうえ金を出して買うことにしてある。
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