間にか、すっかり町を離れて、或る川の傍まで運ばれて来たのを知った。
河原で一人の男が石を破《わ》っている。
槌を石に打ち下した。と思うとやや暫く立ってから、カツ! カツ! という音が耳へ来る。
手元を見ながら音をきくと、ウツカツ! ウツカツ! というようだ。
「ウツカツ! ウツカツ! ウツ……」
だんだん音が微かになると、目の下には茂った森が現われた。
絶えず陽気でお喋りな若い葉どもは、お互にぴったり肩をすり合わせ、頭をよせ合って、しきりに早口で何か囁き合ったかと思うと、クックッ、クックッ微笑み始め、やがてさも堪えきれなそうにサアッと分れて大笑いに笑い潰れる。
と、仲間の一人が、ふざけるような様子をして頭を擡げ、眩しい眼をしばたたきながら、フト自分等の上に来かかる子供を見上げた。
「オヤ、まあ」
サヤサヤ、サヤサヤ……葉どもは一斉に身をそらせて彼を見る。
「アラ、人間の子よ」
「まあ、あんなものに乗っかって……おかしいわ」
「ほんとにまあ、たったあれんぼっちの子!」
「まあ……」
口々に囁きながら、行き過ぎる彼を見なおそうとして、ぶつかり合い縺《もつ》れ合い、大騒ぎで身
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