六は、不意に或る思いつきに胸を打たれた。
「俺ら、俺らあれさ乗ってんべ!
鳥のように飛んで行ける!」
六の心臓は今にも口から飛び出しそうになってしまった。
ころげるようにして、小屋へ馳けつけた彼は、いきなり出ようとする空椅子を捕まえると、ギューギュー自分の体を押しつけながら、
「乗せてくんろ! よ、おじちゃん。
俺らこれさのせてくろよ!」
と叫んだ。
「まあこの餓鬼あ!
あぶねえわな、おっこったら何じょうするだ……」
「やめろっちぇな、
おっこったらはあ、木端微塵《こっぱみじん》になっちまうわ」
「なあに大丈夫、
こんな餓鬼が一匹や二匹乗ったからって、すぐ落ちるような機械を、誰《だあ》れもわざわざ発明もしなけりゃあ、買いもしないやな。
仕事びらきんときあ、町役場のお役人さんが、藻埴《もにわ》まで行って来なすつあね。
大丈夫よ、オイ、小僧。
乗ってもいいが、帰りの椅子で戻って来ねえと、ぶっぱたくぞ」
六の小さい体は、椅子の刳込《くりこ》みにポックリと工合よく納まる。
嬉しさで半ば夢中だった彼が、ようよう少し落付いてあたりを見まわしたときには、もう自分の体はいつの
前へ
次へ
全75ページ中72ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング