六は、不意に或る思いつきに胸を打たれた。
「俺ら、俺らあれさ乗ってんべ!
 鳥のように飛んで行ける!」
 六の心臓は今にも口から飛び出しそうになってしまった。
 ころげるようにして、小屋へ馳けつけた彼は、いきなり出ようとする空椅子を捕まえると、ギューギュー自分の体を押しつけながら、
「乗せてくんろ! よ、おじちゃん。
 俺らこれさのせてくろよ!」
と叫んだ。
「まあこの餓鬼あ!
 あぶねえわな、おっこったら何じょうするだ……」
「やめろっちぇな、
 おっこったらはあ、木端微塵《こっぱみじん》になっちまうわ」
「なあに大丈夫、
 こんな餓鬼が一匹や二匹乗ったからって、すぐ落ちるような機械を、誰《だあ》れもわざわざ発明もしなけりゃあ、買いもしないやな。
 仕事びらきんときあ、町役場のお役人さんが、藻埴《もにわ》まで行って来なすつあね。
 大丈夫よ、オイ、小僧。
 乗ってもいいが、帰りの椅子で戻って来ねえと、ぶっぱたくぞ」
 六の小さい体は、椅子の刳込《くりこ》みにポックリと工合よく納まる。
 嬉しさで半ば夢中だった彼が、ようよう少し落付いてあたりを見まわしたときには、もう自分の体はいつの
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