りこむ日用品をも楽に供給するために、出来たことなのである。
ずいぶん粗末な小屋掛け同様の建物が出来、むこうの部落まで、真中に一ヵ所停留場を置いて、数間置きに支柱が立って、鋼鉄の縒綱《さこう》が頂上の滑車に通り、いよいよ運転を開始したのは、もう七月も半ば過ぎていた。
六はもちろん、早速見物に行った。
そしてもうすっかりびっくりしてしまった。
何から何まで珍しい。たまげることばかりである。
仕事が始まるから終るまで、小屋に立ちつづけて、まったく「不思議なもの」の働きを見るのが、彼の新しい飽きることのない日課となったのである。
或る日、六はいつもの通り小屋へ行こうとして家を出かけた。
そして、とある林の傍へ来かかると彼の目には妙なものが見えた。赤い小さい、可愛い椅子が、何かをのせて空の真中を歩いて行く……
さも呑気《のんき》そうに気持よさそうにスースー、スースーと針金の上を滑って行く……
彼はこんなところから、索道が見えようとは思ってもいなかったのである。
椅子は林の上を通って行くのだ、あんなにも高く!
高く……広く……山を越え……河を越え……スースー……スースー……
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