禰宜様宮田
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)曝《さら》されて
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)折々|雫《しずく》のように
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)※[#「木+(綏−糸)」、第3水準1−85−68、212−19]
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一
春になってから沼の水はグッとふえた。
この間までは皆むき出しになって、うすら寒い風に吹き曝《さら》されていた岸の浅瀬も、今はもうやや濁ってはいるがしとやかな水色にすっかり被われて明るい日光がチラチラと、軽く水面に躍っている。
波ともいわれない水の襞《ひだ》が、あちらの岸からこちらの岸へと寄せて来る毎に、まだ生え換らない葦が控え目がちにサヤサヤ……サヤサヤ……と戦《そよ》ぎ、フト飛び立った鶺鴒《せきれい》が小波の影を追うように、スーイスーイと身を翻す。
ところどころ崩れ落ちて、水に浸っている堤の後からは、ズーとなだらかな丘陵が彼方の山並みまで続いて、ちょうど指で
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