来上ったような森や林が横たわっている。
 いつも何か大した相談事をしているように、きっちり集まっている町の家々の屋根には、赤い瓦が微かに光り、遠いところから毛虫《けっとうばば》のような汽車が来てはまた出て行く。
 目の下を流れて行く川が、やがて、うねりうねって、向うのずうっと向うに見えるもっと大きい河に流れ込むのから、目路も遙かな往還に、茄子《なすび》の馬よりもっと小っちゃこい駄馬を引いた胡麻粒ぐらいの人が、平べったくヨチヨチ動いているのまで、一目で見わたせる。
 河の水音、木々のざわめき、どこかで打つ太鼓の音などは、皆一つの平和な調和を保って、下界から子守唄のようになごやかに物柔かく子供の心を愛撫して行く。
 六の単純な心は、これ等の景色にすっかり魅せられてしまうのが常であった。
 大人の話す町々や河――自分なんかが行こうとでもしたら、死んでしまいそうなほど遠い遠いところにあると思っている山も、河も、賑やかな町もみんなもうすぐその辺に見える。
 こっちの山からあっちの山まで、一またぎで行かれそうだ。
 ちっちゃけえ河、まあ、あげえにちっちゃけえ河!
「オーーイッ!」
 彼は、洗いざら
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