ら来るいろいろな刺戟は皆そこに溜って、しんまで滲み通らない。
 そして、そのどんよりしたものの奥には、大変深い寂しさにしっかりと包み込まれて、いかにもトロリとした露の雫のように、色という色もなければ、薫りという薫りもない、ただあるということだけの感じられるようなものが潜んでいる。
 折々彼の心と体とは、すっかりその透明な、トロリとしたものに吸いこまれてしまって、何も思わず何も聞かず、自分が今ここにこうやっていることさえ知らなくなることなどがありありしたのである。
 毎日毎日仕事ははかどって行った。
 そして、もう二三日であちら側から掘って来た新道と、こちら側から掘って行った道とが、立派に合おうという日である。
 平らな路の間だけに、大きな花崗岩のロールを転がすことになった。
 その日はもう大変にいい天気で、このごろにない暖かな日差しが朝早くから輝いて、日が上りきるとまるで春先のようにのどかな気分が、あたりに漂うほどであった。
 一区切り仕事を片づけた禰宜様宮田は、珍しい日和《ひよ》りにホッと重荷を下したような楽な心持になって、新道のちょうどカーブのかげに長々と横たわりながら、煙草をふか
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