の背のかげから、僅かの暖みをとるのである。
 膝を抱えて小さくうずくまっている禰宜様宮田は、うっとりと、塵《ごみ》くさい大きな肩と肩の間からチロチロと美しく燃える火を見ながら、あてどもない考えに耽るのが常であった。
 けれども、このごろでは何を考えてもお仕舞いまではまとまらず、またまとめようという意志もない。
 ただ、ジイッと静かにしていたいのである。
 誰に何を云われても辛棒してするのは、自分で守っている静かな心持を、口小言や罵りで打ちこわされるのが厭だということも、主な原因になっている。
 他人の云うことも聞えないことの方が多かったりして、彼は我ながら、はあ呆《ぼ》けて来たわえと思うことなどもあった。
 苦しい生活に疲れた彼の心は、ひたすら安静を望んでいるのである。もう激しい世の中から隠遁してしまいたくなっているのである。
 けれども、そうは出来ない彼は、また自分の心がそれを望んでいるのだとは気づかない彼は、老耄《ろうもう》が、もう来たと思った。が、それを拒むほど、彼は若くていたくもなかったのである。
 心がいつもいつも何かどんよりした、厚みのある霧のようなもので包まれていて、外か
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