と切り出したことは、お石にとって何よりであった。早速三人は、禰宜様宮田の許しを乞うたのである。が、お石は彼が主人であるという名に対してとった一種の形式なので、若し彼がいけないと云ったところで、自分が遣ろうという決心はどこまでも貫徹させるつもりではあったのだ。
 話の模様では大変いいらしい。
 けれども町の様子や、そういうところの仕来《しきた》りなどを皆目知らない禰宜様宮田は、責任をもって判断は出来なかった。
「俺ら、おめえ等に指図あしかねる。
 けんども、はあ何んでもお前等《めえら》が仕合せになってんだら、行ぐも悪かあなかっぺえ。
 俺ら、おめえらが仕合せにせえなりゃ、どの道、何よりはあ嬉しいだからなあ……」
 自分のような、利口に世の中を立ちまわれない者を父親にもって、何の仕合せも受けられない娘達が、自分等で働いていい目に会って行こうというのに、そりゃあいけない、止せとは云いきれない。云いきれないだけ彼は娘に愛情を持っていたのである。
 いやがる者をとめて置いて、もうどうせ潰れるにきまったような家と運命を共にさせるには忍びない。
 決心しかねて彼が迷っているうちに、話はぐんぐんはかど
前へ 次へ
全75ページ中57ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング