と、毎日《めえんち》毎日《めえんち》牛《ぎゅう》ばっか食わして、衣裳までくれんだって……
 俺らこげえな貧乏家にいるよら、何ぼかええと思うなあ。
 お前《めえ》どう考《けんげ》える?
 阿母《おっか》ちゃんさきいてんべえか……」
「ふんとになあ、
 俺らも行ぎてえわ、姉ちゃん、
 お前《めえ》と二人《ふたん》で行ぎあ、おっかねえこともあんめえもん……」
 娘達は、このくらいのことを云ってしまうと、もう後に云うことも考えることもなくなるので、いかにも思案に耽っているようにお互に寄りかかり合って、黙ってはいるものの、妹のさだなどはいつの間にか、ほかの考えに気をとられて、何のためにこうやって立っているのか分らなくなるようなことさえあった。
 彼女等が打ち開けかねているとき、母親のお石もまた、心のうちで同じことを考えながら、これもまた娘達に云いだしかねていた。
 今のこのひどい中で二人の口が減ることだけさえ一方《ひとかた》ならないことだのに、その上いくらかは入っても来ようというものだ。
 彼女等《あれら》だってまんざらの子供ではなし……
 そう思っているところへ、娘達の方からどうぞ遣って下さい
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