五年と年期を入れて働きにやっては、いくらかの金を前借するのが、彼等の仲間にとっては、さほど恥ずべきことではない。
 禰宜様宮田は、近所の誰彼が、
「まあ、へえ、よし坊は十円け? よっぱら割がええなあ、俺《お》らげんなあお前《めえ》んげと同じい年でも、いまちいっとやせえわ。
 まちっと相場あ見てっと得したんだになあ」
などと云っているのをきいた。
 もう十六と十三になっている彼の娘達は、勧誘員が来ると一緒に、そのさもいいことずくめらしい言葉から多大の好奇心をそそられた。
 何というあても決心もない。
 ただその多勢でそろいの着物を着て、唄をうたいながら糸をとるということがして見たいのである。
 町の工場で働く。そこに何かここにいてはとうてい得られない名誉と幸福があるような気がする。
 友達だった娘が行くことにきまったなどと、さも嬉しそうに誇らしげに告げると、二人は妙に後れちゃあ大事《おおごと》だという心持になって、こっそり納屋の蔭や、畑の隅で相談する。
 大業に相談するとは云っていても、事柄は簡単なものである。
「さだちゃんよ。
 こんねえだ俺ら、新やん家《げ》で聞いたけんど、工場さ行ぐ
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