って、とうとう娘達は五年間の年期で町へ行くことになり、二十五円の金が親達に渡された。
 娘達は、まるで祭り見物に行くように嬉しがって、はしゃいで行ったのだけれども、証文と引きかえに渡された金を見ると、禰宜様宮田は何ともいえず胸のふさがるような心持になって来た。
 俺の心に済まないから、どんなことがあっても、この金ばかりは決して使ってはならないと、お石に堅く云いつけて、彼は彼女に知らさないようにして、古|葛籠《つづら》の底へ隠してしまった。そして自分でも二度と見ようとはしなかったので、あっちこっち、散々|索《さが》しまわったお石が、とうとうそれを見つけ出して、何ぞのときの用心にと、肌身離さず持っていようなどとは、夢にも知らなかった。
 裏から紙を貼ってある一枚の十円札、まだ新しいもう一枚の十円と五円とは、黒っぽい襤褸《ぼろ》にくるまって今もやはりあの古綿の奥に入っているものと、彼は思っていたのである。
 そして、独り遺った息子の六に、唯一の頼りを感じて暮して行くはずだった自分の心が、日を経るに従ってとかく去った娘達の上にばかり傾けられるのを知った。赤坊のうちから眺めて暮して来た彼女等に対
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