ぎは、この上なくいやな、粗雑な感じを与えた。
始終落付のない、ここのがさつな騒動が、どこともなく町にも伝わって、往来に落葉などを散らせながら、立派な樹々が運ばれて行くのを見ると、皆互の癖になっている嘘つきから、平気そうな顔はしていても、何かしらが心の底で動く。
ああやって伐《き》るのは惜しいようだが、また自分の手で、あれほどの大木を伐り倒せたら、面白かろうなあ。
すっかりまるはだかにされた樹々が、一枚の葉さえないような太い枝を、ブッツリ中途から切られて、寒げに灰色の空に立つ様子。塒《ねぐら》を奪われた烏共が、夕方になると働いている者の頭の上に、高く低く飛び交いながら鳴くのなどをみると、禰宜様宮田は振り上げた斧も、つい下しかねた。
森中の木魂の歎息が、小波のように自分の胸にもよせて来て、彼は心が痛むような気持がした。
いくら木は口を利かないからといって、同じ生きているものを、こんなにむごたらしく、気の毒だとか可哀そうだとか思う方が馬鹿《こけ》だというようにして、まるで楽しみにでもしているように、バタンバタンと切り倒して行かないでも、どうにか成るのじゃあ、あるまいか、今まで幾百年
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