ある。
まだ生れて間もない、細くしなやかな稚木共は、一打ちの斧で、体じゅうを痛々しく震わせながら、音も立てずに倒れて行く。
思いがけない異変に驚く間もあらばこそ、鋭い刀を命の髄まで打ち込まれ打ち込まれした森の古老達は、悲しそうに頭を振り動かし、永年の睦まじかった友達に最後の一瞥を与えながら次から、次へと伐られてしまう。地響を立てて横たわる古い、苔や寄生木《やどりぎ》のついた幹に払われて、共に倒れる小さい生木の裂ける悲鳴。
小枝の折れるパチパチいう音に混って、
「南へよけろよーッ、南ー」
ドドーンとまたどこかで、かなり大きい一本が横たわる。
パカッカッ……カッパ……カッ……パカッカッ……。
せわしい斧の妙な合奏。
樵夫《きこり》の鈍い叫声に調子づけるように、泥がブヨブヨの森の端で、重荷に動きかねる木材を積んだ荷馬を、罵ったり苛責したりする鞭の音が鋭く響く。
ト思うと、日光の明るみに戸惑いした梟《ふくろう》を捕まえて、倒《さか》さまに羽根でぶらさげながら、陽気な若者がどこへか馳けて行く。
今まで、森はあんなに静かな穏やかなところと、誰の頭にもしみ込んでいるので、これ等の騒
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