に鳴りわたる。
ジジー――ジジー――……
地の底で思い出し思い出し鳴く虫の声を聞くともなく聞いていた禰宜様宮田の心のうちへは、また海老屋のことが浮んで来た。
「……なじょにしたらよかっぺえ……」
幾度考えたとて、徒に同じ埒の中を堂々廻りするほかない。
彼は駸々《しんしん》と滲み出して来る無量の淋しさと、頼りなさに、自分の身も心も溺れそうな気がした。
今までは自分の後にあって、目に見えぬ支えとなっていてくれた何か、何かの力が、もうすっかり自分を見捨てて独りぼっち取りのこしたまま、先へ先へと流れて行ってしまうような心持がする。
何も彼にもが過ぎて行く……。
グングン、グングンと何でも彼んでも、皆どっかへ飛んで行ってしまう……。
いたたまれないような孤独の感に打たれて、彼の魂は急に啜泣きを始めた。
空虚《からっぽ》が彼の心にも蝕んで来た。
彼の知らない涙が、あてどもなく凝視《みつ》めているあのいい眼から、糸を引くようにこぼれ出て、疎らな髯のうちへ消えて行った。
五
収穫の後始末もあらかた付いて、農民がいったいに暇になると、かねがね噂のあった或る新道の
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