銭を貰いたさに、普通一俵としてあるところを、二俵も背負っているので、そんなに力持ちでもない彼の肩はミシミシいうように痛い。
 太い木の枝を杖に突いて、ポコポコ、ポコポコ破れた古鞋《ふるわらじ》の足元から砂煙りを立てながら歩いて来た禰宜様宮田は、とある堤に荷をもたせかけるようにしてホッと息を入れた。
 さっき行った人足も、やはりここでこうやって休んだとみえて、枯れかけた草を押し伏せて白土の跡が真白く残っている。
 滲み出した汗を拭きながら、彼はあたりを見まわした。
 すべてが寂しい。
 滅入《めい》るように静かな天地には、もうそろそろ冬の寒さが争われない勢を見せて、すがれた叢《くさむら》、音もなく落葉して行く木立の梢を包んで底冷えのする空気がそこともなく流れている。
 やがては霜になろうとする霧が、泥絵具の茶と緑を混ぜて刷いたような山並みに淡く漂って、篩《ふる》いかけたような細かい日差しが向うにポツネンと立っている※[#「白/十」、第3水準1−88−64、240−20]角子《さいかち》の大木に絡みつき、茶色に大きい実は、莢《さや》のうちで乾いた種子をカラカラ、カラカラと風が渡る毎に侘しげ
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