? それなら仕方がない、土地を差押えるぞ!
これが海老屋の年寄りの奥の手であった。
最初からこうまでするように、彼女の妙法様はお指図下すったのである。
現在海老屋の所有となっている広大な土地は、全部こういう風な詭計を用いて奪ったのだと云うことは、決して単にそねみ半分の悪口ばかりだとはいえない。
そんなことをするに、ちっとも可哀そうだとも、恥かしいとも思わないだけ、充分に彼女の心は強かったのである。
そして、またその驚くべき強い心に、この上ない誇りを感じている彼女は、何も自分の持っている力を引込ませて置く必要は認めなかった。
何のために虎は、あんな牙を持っているかね、弱い人間や獣を食うためじゃあないか、私の生れつきだってそれと同じなのだ。それでもうすっかり彼女は安んじていられたのである。
今度も彼女は、自分の天稟《てんぴん》に我ながら満足しずにはいられなかった。
もうここまで漕ぎ付ければ、後はひとりでに自分の懐に入って来るほかないいくらかの土地を思うと、優勝の戦士がやがて来る月桂冠を待つときのような心持にならざるを得なかった。
比類ない自分の精力と手腕をもってすれば、こ
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