目のないものが棲んでいるどん底へと押し沈めかけていたのである。
ところへ、五年目に起った大不作は彼等一族を、まったく困憊《こんぱい》の極まで追いつめてしまった。
恐ろしい螟虫《ずいむし》の襲撃に会った上、水にまで反《そむ》かれた稲は、絶望された田の乾からびた泥の上に、一本一本と倒れて、やがては腐って行く。
豊かな、喜びの秋が他の耕地耕地を訪れるとき、禰宜様宮田のところへは、何が来てくれたのか。
息もつけない恐怖である。逼迫《ひっぱく》である。
愚痴を並べ、苦情を云っていられるうちは、貧乏の部には入らないという、そのほんとの「空虚《からっぽ》」が来たのである。
空虚な俺等《おら》……。
蓄わえた穀物はなくなるのに、何を買う金もない。何で親子五人の命をつないで行ったらいいのだろう?
そこへ、海老屋ではまたも難題を持ちかけて来た。
一俵の米もよこされない。それじゃあすまないから、今まで貸してやっていた金を、暮まで待つから全部返済しろと云うのである。
食うや食わずで、たださえ生きるか死ぬかの今、無断で一割の利まで加えた百円以上のものを、どうして返せるだろう。
金で返せない
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