美くしい自分の姿及び驚きの目を見張るそんな着物を作られない者達のことごとを想像する通りに、そわそわと弾力のある心持で順々に実現されて来る計画に心酔したようになっていたのであった。
それから三年の間、膏汗《あぶらあせ》を搾るようにして続けた禰宜様宮田の努力に対して、報われたものはただ徒に嵩《かさ》んで行く借金ばかりであった。
今年こそはとたくさんの肥料を与えれば、期待した半分の収穫もなくて、町の肥料問屋へも、海老屋へも、どうしようもなくて願った借金が殖えて行く。
今までは、貧しくこそあれ一文の貸しもない代りに、また借りもなく、家内中の者が家内中の手で暮していられた彼等の生活には、絶えずジリジリと生身に喰いこんで来る重い重い枷《かせ》が掛けられた。
どうにかしてはずしたい。
何とかして元の身軽さに戻りたい。
一生懸命にもがけばもがくほど、枷はしっかりと食いこんで来るように、僅かの機会でも利用して借金も軽め生活も楽にさせたいとあせればあせるほど、経済は四離滅裂になって来る。
ガタガタになり始めた隅々から、貧しさは止度もなく流れこんで、哀れな小さい箱舟を、一寸二寸と、暗い、寒い、
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