なこったと云っていられるお石の心持を半ば驚きながら、彼はいろいろと云い訳の言葉などを考えた。
 あの年寄がこんなことを願いに行ったときいたばかりで、何と云うかと思っただけでさえ、足の竦《すく》むような気のする彼は、せめてものお詫びのしるしにと、新らしい冬菜《とうな》をたくさん車にのせて、おずおずと出かけて行ったのである。
 台所の土間に土下座をするようにして、顔もあげ得ずまごつきながら、四俵のはずのところを二俵で勘弁してくれと云う禰宜様宮田を、上の板の間に蹲踞《しゃが》んで見下していた年寄りは、思わず、
「フム、フム」
とおかしな音をたてて鼻を鳴らしたほど、いい御機嫌であった。
 いくら平気でいるように見せかけても、あらそわれない微笑が、ともすれば口元に渦巻いて、心が若い娘のようにはねまわった。
 彼女の計画はこうなって来なければならないのだ。
 こうなると、ああなって、そういう風にさえなると……。
 いろいろな意味において快く承知した年寄りは、負けてやる二俵分を現金に換算して禰宜様宮田に借用証文を作らせながら、ちょうど若い人がこれから出来ようとする気に入りの着物の模様、着て引き立った
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