して行ったのだともいう、石っころだらけの、どこからどう水を引いたらいいのかも分らないように、孤立している田地を見たとき、禰宜様宮田は思わず溜息を洩した。
 いったいどこから手を付ければ、こんなにも瘠せきった原っぱのような田地を、少くとも人並みのものに出来るのだろう……。
 けれども、もうこうなっては否でも応でも収穫を得なければ大変になる。
 全く強制的に彼は朝起きるとから日が落ちるまで、土龍《もぐら》のように働かなければならなかったのである。
 禰宜様宮田は、ほんとに体の骨が曲ってしまうほど耕しもし、血の出るような工面をして、たくさんの肥料もかけてみた。寸刻の緩みもなく、この上ない努力をしつづける彼の心に対しても、よくあるべきはずの結果は、時はずれの長雨でめちゃめちゃにされた。
 稲の大半は青立ちになってしまったのである。
 どうしても負けてもらわなければ仕方がなくなった禰宜様宮田は、年貢納めの数日前、全く冷汗をかきながら海老屋へ出かけて行く決心をした。
 小作をして、おきまり通りちゃんちゃん納められるものが、十人の中で幾人いる、何も恥かしいことじゃあない、平気でごぜ、平気でごぜ。尋常
前へ 次へ
全75ページ中36ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング