んな相手を斃《たお》したことは、むしろ当然というべきではある。
が、嬉しい。この上なく張合がある。
土地や金が、ただ「殖える」とか「広くなる」とかいう、そんなやにっこい言葉で彼女の快感は表わせないほど、熾《さか》んなのであった。
彼女は、しんから自分自身の生命の栄えを讃美しながら、次の対照の現われを強い自信と名誉をもって待っていたのである。
が、禰宜様宮田は……。
憤るには、彼等はあまり疲弊していた。
海老屋から使がその趣を伝えて来たときでも、彼等夫婦はまるで他人のことのように、ぼんやりした、平気な顔をして聞いていた。
何だかもう、頭の中が真暗になって、感じも何も皆どこへか行ってしまったような心の状態になっていたのである。
絶えず口元に自嘲的な笑を漂わせながら、唇を噛んでいるお石は、すっかり自暴自棄になってしまった。
まだ何か望みがあり、盛り返せるかもしれないという未練が残っていたときには、懸命に稼ぐ気にもなり、怨む気もしたけれども、こうまで落ちきってしまえば、絶望した彼女の心は自棄《やけ》になるほかない。
「へん海老屋の鬼婆あ!
何んもはあねえくなるまで、さっさと
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