包蔵されていたような心持がして、禰宜様宮田はまるで聖者の仮面を被った悪魔、生活を破壊させ、堕落させようと努めてばかりいる悪魔のように憎んだのである。
もちろん、お石の心の中では、こういうふうな言葉も順序もついてはいない。
掻きまわされた溝のように、ムラムラ、ムラムラと何も彼も一どきにごた混ぜになって互に互を穢し合いながら湧き出して来る。
そうするともう真暗になってしまう彼女は、訳も分らず叱りつけ、怒鳴りつけ、擲《なぐ》り散らす。
けれども、すぐ旋風が過ぎてしまうと、後には子供達に顔を見られるのも堪らないような気恥かしさが残るので、彼女は照れ隠しにわざとどこかへ喋りに飛び出してしまうのである。
妙にぎごちない、皆が各自の底意を見抜きながら、僅かの自尊心で折れて出る者は独りもないような生活が彼女にとってもはやうんざりして来たとき、思いがけずに海老屋の番頭が、欲しいものを要求してくれと云って来たときには、もう何と云っていいかまるで生き返ったような心持がした。
自分さえ打ちとければ、それに対して片意地な心を持つ者は誰もいないなどと思わないお石は、小さい娘達まで心のひねくれた大人扱い
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