それがよし自分と同じでないとしたところで、どうして怨んでなるものか。
すべてのもののうちに潜んでいる真当、掘り下げて、掘り下げて行った底には、きっと光っているに違いない真当に、強い憧れを感じて、禰宜様宮田のあの子供らしい、上品な眼は涙ぐんだのである。
貧乏な暮しには、いい魂より金の方が大切だ。
お石は、唇を噛んでジリジリしながら、どう考えても馬鹿《こけ》の阿呆《あほう》に違いない自分の亭主を呪った。
家中の責任を皆背負って立っている自分、この自分がいるばかりにようよう哀れな亭主も子供達も生きていられるのだという自信に、少なからず誇りを感じていた彼女は、何の価値も全然認め得ない彼が、一存で礼を突返して来たということ――無能力者の僭越――によって、非常に自分の誇りを傷けられたと感じた。
ちょうど、大変自尊心の強い先生がどうかしたはずみで目にもとめていなかった生徒に、遣りこめられたときのような、何とも云いようのない混雑した心持を、形式こそ違え、お石も感じていたのである。
そして、一層その金包みに愛着を感じた。
指一本触らずに置いて来た金包みのうちに、彼女は自分等の永久的な慰楽が
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