耕地の端れの柏の古木の蔭に横たわりながら、彼は様々な思いに耽ったのである。
透き通りそうに澄みわたって、まるで精巧なギヤマン細工の天蓋のように一面キラキラと輝いている、広い広い空。
短かい陽炎《かげろう》がチロチロともえる香りのいい地面。
禰宜様宮田は、ジイッと瞳をせばめて、大きい果しない天地を想う。
そして、想えば想うほど、眺めれば眺めるほど、彼はあの碧い空の奥、この勢のいい地面の底に何か在りそうでたまらない心持になって来るのである。
ほんとに、きっと何かが在りそうな気がする。
それならいったい何が在るのか?
彼は知らないし、また解りもしない。
ただ、底抜けでない、筒抜けでは決してないという心強さが、じわじわと彼の心の核にまで滲みこみ、悠久な愛情が滾々《こんこん》と湧き出して、一杯になっていた苦しみを静かに押し流しながら、慎み深い魂全体に満ち溢れるのである。
「何事もはあ真当《まっとう》なこった……」
天地が広いのが真当なように、何も知らない意くじない自分が小さいのは、辛いことがあるのは決してまちがいではない。
「どなたか」は各自の心に各自違った考えをお授けなさる。
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