な貧乏おっかあをひでえ目に会わせくさる!
 あんでも父っちゃんに買って貰っちゃ、呉れるちゅう金え、突返《つっけえ》すほどのお大尽《でえじん》たあ知んねえで、我が食うもんもはあ食わねえようにして、稼《かせ》えでたんなあ、さぞええざまだったべえて、
 俺らも、もう毎日《めえにち》真黒んなって働くなあ止めだ、人う面白《おもさ》くもねえ、
 後《あた》あどうでもええようにすんがええや」
 朝でもふて寝をしたり、食事の用意もしないまんま、どこへか喋りに行ってしまったりするので、心のうちではそんなに母親を怒らせた父親を怨みながら、まだやっと十一のさだ[#「さだ」に傍点]が危うげに飯などを炊く。
 暗い、年中ジクジクしている流し元に、鍋などを洗っている姉の傍に、むずかる六をこぼれそうにおぶったまき[#「まき」に傍点]が、途方に暮れたように立ちながら、何か小声で託《かこ》っているのを見ると、禰宜様宮田はほんとに辛いような心持に打たれた。
 自分がいればいるほど、大混雑になる家から逃れるようにして、彼は出来るだけ野良にばかり出ていた。
 けれども、別にそう大して働かなければならないほどの仕事もない。
 
前へ 次へ
全75ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング