ず、
「とっさん、土産《みやげ》あ後からけえ?」
と訊かずにはおられなかった。が、
「馬鹿《こけ》えこくもんでねえ」
と、彼は相手にもしない。
だんだん聞いて、出された金包みを戻して来たと知ったときには、
「まあお前が……まあ返《けえ》して来たっちゅうけえ!」
お石は、腹のしんが皆抜けてしまったように、落胆《がっかり》した。暫くポカンとした顔で亭主を見ていた彼女は、やがて気をとりなおすと一緒に、今まで嘗てこんなに怒ったことはないほどの激しい憤りを爆発させた。
半《なかば》夢中になって、彼をまるで猫や犬のように罵り散らしながら、自分の前かけや袖口を歯でブリブリと噛み破る。
訳が分らないで怒鳴りつけられたり擲《ぶ》たれたりして、恐ろしそうに竦《すく》んでいる子供達の肩を撫でてやりながら、禰宜様宮田は、黙然としてその罵詈讒謗《ばりざんぼう》を浴びていた。
それから毎日毎日こういう厭なことばかりが続いた。
お石は、何かにつけて金を貰って来なかったことを引合いに出して、子供がちょっと物をねだることまで皆彼女の腹癒せの材料にされたのである。
「汝等《にしら》あまでたかってからに、こげえ
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