さりゃあ、どいつもはあ気違えのようなもんでござりますよ。
へ……」
作男達の顔には、彼等特有の微笑が湧く。
誰か「エヘン!」とわざと大きな咳払いをして、おばあさんが振向く間もなくどこかへゴソゴソ隠れてしまった。
手元が見えなくなるまで、真黒になって働いていた年寄りは、食事をすませると火鉢の傍で、煮がらしの番茶を飲んでいた。
いつともなく禰宜様宮田の丁寧なお辞儀の仕振りなどを思い出していた彼女の心には、不意に思いがけずあの妙法様がお乗りうつりなすった。そして、瞬く間に誰が聞いてもびっくりせずにはいないほど、「いい思案」が夕立雲のように後から後からと湧き出して来て、頭を一杯にしてしまった。
腹心の番頭と、やや暫く評議を凝らしたときには、これからもう五六年も後のことが、ちゃんと表になり数字になって現われていたのである。
禰宜様宮田の臆病なウジウジした様子が、何か年寄りに「いい思案」のきっかけを与えたらしかった。
海老屋へ行った禰宜様宮田は、きっとふんだんな御|褒美《ほうび》にあずかって来るものだと思って、待ちに待っていたお石は、空手で呆然《ぼんやり》戻って来た彼を見ると、思わ
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