偉えもんだ……」
 彼は思わずもつぶやく。
 そして、自分の囲りにある物という物すべてから、いきいきとして、真当《まっとう》なあらたかな気が立ち上って来るように感じたのである。
 一本の樹でもどんな小さな草でもが皆創られた通りに生きている。
 背の低いものは低いように、高いものはまた高いもののようにお互にしっくりと工合よく、仲よさそうに生きているのを見ると、何によらず彼は、
「はあ、真当なことだ」
と思う。
 そしてどことなく心がのびのびと楽しくなって、彼のいつも遠慮深そうに瞬いている、大きい子供らしい眼の底には、小さい水銀の玉のような微かな輝やきが湧くのである。
 いったい彼の顔は、大変人の注意をひく。
 利口そうだというのでもなければ雄々しいというのではもとよりない。
 東北の農民に共通な四角ばって、頬骨の突出た骨相を彼も持ってはいるのだけれども、五十にやがて手が届こうとしている男だなどとはどうしても思えないほど若々しく真黒な瞳を慎ましく、けれどもちゃんと相手の顔に向けて、下瞼の大きな黒子《ほくろ》を震わせながら、丁寧に口を利く彼の顔を見ると、誰でもフトここらでは滅多に受けない感じ
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