ような心持になりながら、ぎごちない言葉で辞退した。
「ほんにはあお有難うござりやすけんど……
俺ら心にすみましねえから……」
けれども年寄りの方では、喉から手が出そうに欲しくても、一度は「やってみる」遠慮だと思ったので、唇の先だけで、
「まあ御遠慮は無用だよ」
と云いながら、煙草を吸い込む度に目を細くしては彼の様子を見ていた。
が、彼はどうしても納めようとしない。
貰わない訳を彼は説明したかったのだ。けれども、何より肝腎の、
「俺の心にすまんねえもの」
を、云いとくに入用《いる》だけの言葉数さえ知らない上に、どういう訳だからどうなって俺の心に済まないのかと、いうことは、彼自身にさえよくは分っていない。
ただ心に済まない気がする。後にも先にもそれだけなのである。けれども、その漠然とした「気持」が、どんなにしてもごまかせもせず、許せもしない強さで彼の心を支配しているのである。
永い間ジーッと考えれば、云われないこともなかろうが、何にしろ、今こうやって年寄りが面と向って口元を見守っているときなどに、どうして平気でそんなことが考えていられよう。
彼のいい魂は、すっかり恐縮してがん
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