て、晴れた空に響いて行く。
娘のまき[#「まき」に傍点]と、さだ[#「さだ」に傍点]に守りをされながら、六《ろく》の小さい裸足の足音は湿りけのある地面に吸いつくような調子で、今来て肩につかまったかと思うと、もうあっちへヨチヨチとかけて行く。
「ア、六。
そげえなとこさえぐでねえぞ。
血もんもが出来てああいていてになんぞ、な。
こっちゃて、ほうら見、とっとがまんま食ってんぞ、おうめえうめえてな……」
麦粉菓子の薄いような香いが、乾いて行く※[#「木+(綏−糸)」、第3水準1−85−68、213−15]の根から静かにあたりに漂っていた。
すると、昼過ぎになって、突然海老屋の番頭だという男が訪ねて来た。
昨日のお礼を云いたいから、店まで一緒に来てくれと云うのである。
いろいろ言葉に綾をつけながら、わざと早口に、ぞんざいな物云いをする番頭は、彼の妙にピカピカする黒足袋を珍らしがって※[#「奚+隹」、読みは「にわとり」、第3水準1−93−66、213−19]共が首を延すたんびに、さも気味悪そうに下駄をバタバタやっては追い立てる。
※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66、214
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