−1]がはあおっかねえとは……
 心の内でびっくりしながら、まき[#「まき」に傍点]やさだ[#「さだ」に傍点]は番頭が厭な顔をするのも平気で、真正面に突っ立ったまま、不遠慮にその顎のとがった顔を見守っている。
 禰宜様宮田は行きたくなかった。
 そんな立派な家へ、何も知らない自分が出かけて行くのは気も引けたし、何かやるやると云われるのにも当惑した。
「俺らほんにはあお使えいただいただけで、結構でござりやす……
 何《なん》もそげえに……
 そんに決して俺らの力ばっかじゃあござりましねえから……」
 彼は下さる物は、自分のような貧乏人にとって不用《いら》ないはずはないことは知っている。
 けれども……何だか品物などでお礼をされるには及ばないほどの満足が彼の心にはあったのである。
 そして物なんか貰ってさも俺の手柄だぞという顔は、とうてい出来ない何かが彼の頭を去らなかった。
 番頭に蹴飛ばされそうになる雛どもを、ソーッと彼方へやりながら、禰宜様は幾度も幾度も辞退した。
 が、番頭はきかない。
 とうとう喋りまかされた禰宜様宮田は、海老屋まで出かけることになった。
 店の繁盛なことや、暮しの
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