ぎは、この上なくいやな、粗雑な感じを与えた。
始終落付のない、ここのがさつな騒動が、どこともなく町にも伝わって、往来に落葉などを散らせながら、立派な樹々が運ばれて行くのを見ると、皆互の癖になっている嘘つきから、平気そうな顔はしていても、何かしらが心の底で動く。
ああやって伐《き》るのは惜しいようだが、また自分の手で、あれほどの大木を伐り倒せたら、面白かろうなあ。
すっかりまるはだかにされた樹々が、一枚の葉さえないような太い枝を、ブッツリ中途から切られて、寒げに灰色の空に立つ様子。塒《ねぐら》を奪われた烏共が、夕方になると働いている者の頭の上に、高く低く飛び交いながら鳴くのなどをみると、禰宜様宮田は振り上げた斧も、つい下しかねた。
森中の木魂の歎息が、小波のように自分の胸にもよせて来て、彼は心が痛むような気持がした。
いくら木は口を利かないからといって、同じ生きているものを、こんなにむごたらしく、気の毒だとか可哀そうだとか思う方が馬鹿《こけ》だというようにして、まるで楽しみにでもしているように、バタンバタンと切り倒して行かないでも、どうにか成るのじゃあ、あるまいか、今まで幾百年かの間茂って立派だった森も、巣くっていた鳥共も、草もきのこも何も彼も、皆無くなしてしまったところへ、あんな古ぼけた一台や二台の自動車が馳けて行くからといって……そこにどんなにいいことがあるのだろう。
禰宜様宮田は、人があまり損得に夢中になっているので、却って上気《のぼ》せ上って自分にははっきり分る損得を、逆に取り違えているのではあるまいかなどとも想う。けれども、もちろん口に出しては一口も云う彼ではない。黙ってまるで蟻のように働く禰宜様宮田は、寄り集り者の仲間から、あっぱの宮田――唖《おし》の宮田――という綽名をつけられて、心さえ持ってはいない機械《からくり》、ちいっとばっか工合のええ機械のように、ただ泥づかりになって働くほか能のない人間だと思われていたのである。
森がだんだん開けて来る頃から、そろそろ冬籠りの季節になって来て、雪などに降りこめられた禰宜様宮田が町から請負って来た粗末な笊《ざる》だの蚕籠だのを編んだりするようになると、例年の通り町から、紡績工女募集の勧誘員が、部落の家々を戸別に訪問しはじめた。
紡績工場やモスリン工場へ、まだ十に手が届くか届かないような子まで、十年十
前へ
次へ
全38ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング