のを忘れる。夫がまたその普通の女と違う点に安心して干渉しない。実際の事情はそうなのに、若い盛りを恐ろしい孤独で暮して来たはつ子がすべて勘違いし、男達が自分を愛するものと思う。自分の肉体が特別なので、そう云う経験をはつ子は独特なもののように告白せずにはいられないのだ。――鈴子は、
「だから男のひとが私のところへ来ては、そんなに思われているの迷惑だってよく云います。あの人は私共の仲間の愛嬌ものですよ」
と笑った。
「清田さんがよく理解していなさるとあのひとは思っていたってね」
 来た時から黙って皆の話を聞いていた藍子が、その時突然小麦色の顔を赧らめ、鈴子に訊いた。
「――そういうことみんな清田さんにも云ってあげなさるんですか」
「ええ、ええ、私よく云うんですとも! 貴女が考えてる位のことは誰でも考えてますよ。ただ黙っているばかりです。だから貴女も黙っていたらいいでしょうってね」
 森もやがて帰り、藍子は今まで二人のかけていた籐長椅子の上へ半分体を延して横わった。
 尚子と藍子はそれから愉快げに種々互いの仕事や勉強について話した。
「そう云えば、貴女感心に愛素つかさずやっているわね、どうして
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