いて? この頃、あの先生」
尾世川は尚子の遠縁に当る人で、彼女の紹介で藍子は知ったのであった。
「――あの人名がわるいんですよ」
「へえ――誰にきいて」
「だって、あんな規知《のりとも》なんて名つけるから、逆さになっちゃったんでしょう」
「馬鹿仰云い!」
二人は声を揃えて笑った。
「ああ、あなたに見せるものがある」
尚子は、自分の机の上から一枚絵ハガキをとり、黙って藍子の目の前につき出した。
「どこの? おや塩原ですね」
「はやく裏御覧なさい」
藍子は、くるりと長椅子から起きかえりながらその絵はがきの裏を見たが、
「なあんだ」
ぷいと放り出し、そのまままた横になってしまった。
「駄々っ子ね。折角とっといて上げたのに読んだらいいじゃあないの」
「読まないだっていい」
「かわってる?」
尚子はしんみりした調子で、
「でも美枝子さん、今度こそ本当に幸福らしいから結構だ」
と云った。
「あの人たちみたいなのも余りないわね、二年も婚約していて、おまけにあんな喧嘩をする。それでもやっぱり離れ切りもしないでこう円満に納まるんだから」
「喧嘩して却ってよくなったのかもしれない」
「そんなこ
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