思ってますね」
すると、紺サージの洋服をつけ、後で丸めた髪を白セルロイドの大きなお下髪止めでとめた瘠せて小柄な鈴子が、効果を意識した口調で、
「だからさ、そんなことは人によって違うんですよ、私だって三十六になったけれど、そんな気は一遍も起りゃしませんよ」
と、反駁した。
「誰でも小道徳に捕われている間は、そういう自在な境涯へは入れないんですよ」
はつ子は、自分の言葉に自分から熱くなったように、
「私世の中に自分ほど面白いものはないと思いますね。自分のことを話すのだったら、どんなに話したって飽きることはありませんからね」
と云った。
「あの人は告白病にかかってるんです」
はつ子が帰って行った後で、森がそう云った。
「あのひとは、あの告白病で雑誌をつぶしているんですよ。先もあのひとが国へ帰っていた間に清田さんがほかの女の人に手紙をやったって大層な喧嘩になって、それを雑誌へ書いて、うんと断わられてしまったでしょう。今度だって貴女、変な若い男と何だかで、それをまた雑誌へ告白し、雑誌を駄目にしちまったんですもの」
はつ子が幼時の病気の為、頭巾を離せぬ体なので、周囲に集る男がつい彼女の女な
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