に、あっちこっちで路普請や建て増しをしている。その坂のところでも僅かな平地に日当り悪そうな三階建が立ちかかっていた。一雨で崩れそうなごろた石の石垣について曲り、道でないような土産屋の庇下を抜けると、一方は崖、一方に川の流れている処へ出た。川岸に数軒ひどい破屋があって、一軒では往来から手の届く板の間に黄色い泥のようなもので拵えた恵比寿がいくつも乾してあった。
「――ひどい路だな」
なほ子は黙って歩いた。彼女にとってこの路は始めてではなかった。数年前、今は別れた夫とこの道を何度も通った。崖の洞《ほら》に祀ってある何かの小さい社に見覚えがあった。
橋を一つ渡ると、道は左手に川を眺めて進んだ。ところどころ、大きな地崩れでやっと一人歩ける小道が、右手の石垣よりに遺されている。やはりごろた石の垣だ。歩きながら、なほ子はひとりでに二三度、その石垣の上の家の方へ視線を向けた。彼女が五日ばかりいた小林区の役宅と云うのは、確かにその辺に在ったに違いないのに、どこにもそれらしい家のかげは見えなかった。ただ、どれが新しいとも分らない同じような破屋がその辺一帯に建てこみ、一軒の理髪店が、赤と藍との塗り分け棒
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