白い蚊帳
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)手摺《てすり》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)沢山|柄杓《ひしゃく》がかかっていた。
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)井[#「井」は○付き文字]
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なほ子は、従弟の部屋の手摺《てすり》から、熱心に下の往来の大神楽を見物していた。その大神楽は、朝早くから温泉町を流しているのだが、坂の左右に並んだ温泉町は小さいから、三味線、鉦《かね》などの音が町の入口から聞えた。
今、彼等は坂のつき当りの土産屋の前で芸当をやっていた。土産屋の前は自動車を廻せる程度の広場なので足場がいいのだろう。大神楽は、永い間芸をした。朝から殆ど軒並に流して来ていたのでもう見物は尠い。土産屋の柱のところに、子供を抱いた男が一人立っていた。あとは子供連だ。その子供連にしても今は仲間同士で遊びながら、何とはなし彼等の周囲にたかっているというだけであった。間に、田舎万歳の野卑な懸合話をしたり、頭を扇ではたき合ったりするが、愈々《いよいよ》本気で水芸にかかると、たかみの見物
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