わざ出ていて呉れた総子の心持に、特別な思いやりのあるのを感じ、一層嬉しかった。総子は、不恰好な足駄の包や傘など一どきに抱えて立ち上り、
「さ、これ」
と云った。
 他の者はもう寝ている。総子の部屋で茶をのみながら、なほ子は母の容体を話した。
「それで?――誰かに診せたの」
「まだ」
「そんなことってあるものか」
 総子は、大きな怒ったような声を出した。
「貴女がついててそんな!」
「だからね、明日行ったら私自分で手筈するわ、もう親父さんはあてにしないで、ね」
 目の前に母の顔を見ていた間、心配は心配でも何か切迫しないものがあったが、今総子と話していると、なほ子はこわさに似た不安を覚えた。親が老いたということが子にとって持つ意味の大きさ、それがなほ子の心臓をさしたのであった。――
 総子が煙をぱあっと散らせながら煙草をのんだ。そして、なほ子の顔を見ている。なほ子も内心の感じに捕われながら、自分を見ている総子の顔を凝っと見ていたが、不意に彼女は口を少し開け、変に苦しげな恐怖に襲われた表情をした。総子の顔を見ている眼に、問いたげな色を現わした。
「どうした? どうした?」
 なほ子は、頭を振
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