強い重い感じが現れた。が、なほ子はその間にも心痛の加るのを感じた。半分笑いながら、
「このお婆ちゃんは頑固でどうしてもお医者がいやだって仰云るのよ。土屋さん、一つすすめて頂戴」
と、なほ子はその客に云った。土屋が帰ると、まさ子は、横になりながら、
「一つは精神的にも来ているんだろう」
と云った。
「この頃は生きている張合がなくなったような気がする――何か期待するなんていう気持がちっとも起らなくなってしまった、極く冷やかな心持だねえ、悟ったって云えば悟ったのかもしれないが……」
なほ子は思わずつよく、
「悟りは冷やかなもんじゃあないことよ、あたたかいはずよ」
そして、笑い出しながら云った。
「けちなこと云い出すと、火をつけるぞ――」
「――何だい――」まさ子は「なんだ、飛んだ婆焼庵だね」
苦笑したが、
「全くね、若い時分には、立派な家に棲っている人を見ると、ああ羨しい、自分もどうかあんな家に住みたいと思ったもんだが、この頃は、まあ一体こんな家の後をどんな人が継ぐのだろう、と思うね、羨しくなんぞちっともない。却って変な淋しい気になる。――それに……この頃では父様の力というものも分って
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