起させた。
「何だかすーすー寒いね、障子閉めとくれな」
まさ子は、小さい娘がいなくなると、細かく容体をなほ子に話した。なほ子はそれを聞かない前より不安になった。
「その事は一時的で癒ったって、こんなに弱っているのはいけないわ、第一食慾のないなんか。どうしてちゃんとした人に診《み》てお貰いんならないの」
まさ子は、弁解するように、
「診せたよ、だから――久保さんに」と云った。
「更年期にあり勝ちのことだから、その方は何にも心配することはないんだよ。――疲労だよ」
そのうちに、父の昌太郎も帰って来た。
「どうですね、少しは何か食べられますか」
それを捕え、まさ子は半分冗談で攻めるように、
「国府津へなんか来いと仰云るから悪いんですよ」
などと云った。
なほ子は台所へ出て行き、冷肉を拵える鶏を注文させた。料理台の傍に立っている女中に、
「晩に上るもの、何か拵えた?」
と訊くと、
「いいえ、何も致しませんでした。召上りたくないと仰云いましたから……」
雇人と、あとは小さい娘とだけで病床にいる母の境遇がなほ子の心に迫った。
おそくなって、野菜スープやサラドを運んで行ったが、まさ子
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