」に傍点]がいるよ」
私の熱心な拍子木に迎えられ、遠い家から晩さん[#「さん」に傍点]に来るのは、たれだろう? 親切な読者たちは、それがまあひどく馬鹿でもなく、見っともなくもない一人の青年か、壮年か、兎に角マスキュリン・ジェンダで話さるべき客と想像されはしまいか? それは幾分ロマンティックだ。まして、彼が私の崇拝者ででもあるというなら。あの辺の自然はおう[#「おう」に傍点]揚で規模の壮大な野放しの美に充ちているから、その位のありふれたロマンスでもきっとそうこせこせ極りわるい思いをさせずに存在させたでしょう。しかし、何という私はおばあ[#「ばあ」に傍点]さんに縁の深い人間だろう、私の拍子木に答えて来るのは、おばあ[#「ばあ」に傍点]さんだ。しかも八十二になる。――
夕方、私は八十四で少しぼけ始めた祖母と、八十二で、貧しく村のうわさ話し伝達掛のそのばあさんと小娘と四人で晩飯をたべていた。もう仕舞い頃、電燈の光がよく届かない台所から、
「お晩になりました」
と、耳なれた女の声がした。
「だあれ? おみささん? お上りなさい」
「さあ、お前もおいで」
ことこと音がし、おみささんが現われた
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