。十一ばかりの末の娘をつれて。おみささんは、大きい四角なかさばった風呂敷包みを小脇にかかえ、眼のすわらないそわそわした顔付きであった。
「さあ、もう何もこわえことないわ」
「何なの、どうかしたの」
「御あいさつもしないで――隣の家でえらいけんかが始りましてね」
「吉太郎げでかえ?」
「そうよしか、お前、とても一通りのこってねえの」
「たれか来てけ?」
「いんや夫婦よ、あのおきみっ子と吉太郎がお前、吉太郎はおきみっ子を殺すって出刃磨いでんだもの、おらあもうおっかなくておっかなくて家にいたたまれないから逃げて来たのよ」
「何だべまあ、そげえな」
「朝っぱらから口争いはしていたのよ、おれも聞いていたから、すると、いきなりさっきおきみっ子が逃げて来て、吉さが殺すからかくまってくれっていうじゃないか、おれあなじょにしようと思ってね、本当に。追かけて来てこっちまで斬られたりしたならつまんねえと思って、こっそり裏から河崎屋んげさ逃してやってすぐこっちに上ったんだけんど……おらほんにやんだわ」
血相をかえて話すので、私はぞうっとし、すっかり家中明け放した庭の暗が気味わるく成って来た。私はけんかは嫌い
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