田舎風なヒューモレスク
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)戸外《おもて》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)牧歌的滑けい[#「けい」に傍点]がつきものです。
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 都会の者だって夫婦げんかはする。けれども、田舎の夫婦げんかには、独得の牧歌的滑けい[#「けい」に傍点]がつきものです。いつか村で有名な夫婦げんかが一つあった。
 勇吉という男がある。もう五十八九の年配だ。体の大きいひょうかん[#「ひょうかん」に傍点]な働きてで、どんどん身代をこしらえた。若い時、村の池で溺れかかった中学生を救った時右の人さし指をくい切られて、その指は真中の節からない。よく酒を飲む。女房は、おしまという。亭主に負けない黒い顔で、眼の丸い働きものです。村で一番という位蚕のおき方がうまい。沢山酒ものむし、盆躍りは少し夢中になり過ぎるが、勇吉の身上の半分はもち論このおしまのかせぎで出来たのであった。
 段々暮し向の工合はよくなり、夫婦で骨休めに温泉などへ出かけるようには成ったが、勇吉は子持たずであった。二人はそれをさびしいと思うように成った。夫
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