畳か」
といってあたりを見廻した時、いつの間にやら鎮まって、あっけにとられ、彼の所業《しわざ》を見守っていた勇吉が、いかにも面目なげにしおれ、小さい声で勘助にささやいた。
「もうええ」
勘助は、勇吉を眺め、やはり楽しそうにさらりといった。
「そうけ、じゃあやめべえ、おやすみなんしょ」
翌日、勇吉は、麦粉をもって勘助のところへ行った。
「はあ、何ともはあ……どうぞお前から皆によろしくいってくんさんしょ、いずれ何とかする気では居んが」
「そりゃ構うめえが……何だね……おれあたまげたぞ全く、どうなるかと思ったて。何だね? 一体ことの起りあ」
勇吉は、赤銅色の顔を一寸伏せ、人よく、
「へへ」
と照れ笑いをした。
「詰んねえことさ、その……何さ、きい奴まだ若けえのに――その亭主兵隊さとられちまってはあ――その……さびしかっぺえと思ったんで、おらあ……何、ちょっくら親切してやったのうばばあめ……騒いでけつかる」
去年の六月、私は祖母とその村にいた。
毎日夕焼空が非常に美しかった。東京の市中では想像もつかない広い空、耕地、遠くの山脈。竹やぶの細い葉を一枚一枚キラキラ強い金色にひらめかせな
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