づけ出した。勇吉は、立ちはだかって、勘助を見ていたがやがて、
「何でえ、何しくさるでえ」
とつめよせて来た。
「畜生! うせあがれ! われの家われと焼くが何でえけねえ、どかねえと打《ぶ》っ殺すぞ」
馬さんその他上って来て、種々仲裁したが、勇吉はなかなかきかない。
「おらあ、火いつけりゃあ牢にへえる位知ってるだ! ああ知ってするごんだよ、だから放っといてくんろ、畜生! 面白くもねえ、ええい!」
強力だから、あばれると一寸相手がない。人々を振りほどいてまた、粗朶火をふり廻す。勘助は、黙って考えていたが、はっきり勇吉の耳元で叫んだ。
「なる程、おらわるかった。折角おめえこの家焼きてえちゅうに止めだてしてわるかった。おらもじゃあ手伝ってくれべえよ」
勘助も粗朶火を手に持った。そして、消防の方に何だか合図し、穏かに、楽しそうな風体で、
「おらも助《す》けてやるぞ、なあ勇吉どん」
と、ふすま[#「ふすま」に傍点]をはずして持ち出し、土間のワラをかき集めては火をつけた。――このような見ものを村人は、村始まって見たことはなかった。何という面白そうな火つけ人! 勘助が、
「さて、次は何を焼くべえ、
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