また自問自答が始まった。
「――もち論あれがシュロの葉の立てる音だということはわかってはいるが……しかし、万一、そう万万万ガ[#「ガ」は小書き]一、その吉さという男が、血迷って女房を殺し、おれを馬鹿だといって笑ったかかあ[#「かかあ」に傍点]はどこにいると暴れ込んで来たら、自分はどうそれを扱ったものであろう」
 私は女だ。吉さが刃物をもって来ては一応かないそうもない。が、あそこにいる、命ばかりはお助けとはまたいえそうもない。ああ、昔の女侠客はそういう場合どうしたか、私も講談で知ってはいる。勇ましく体をつき出し、こうたんか[#「たんか」に傍点]を切るのだ。
「お前さんも恨があるというからには、頼んだところで、おいそれと聞いてはくれまい。けれども、私も一旦おうと引受て、かくまったからには、御存分にと出すことあ出来ない。たってというなら、先ずこの私を切るなりつくなりしてからにしておくんなさい」
 ふむ。――侠客の女房で、逆を行ったのもあった。あくまでいないとしらを切り抜くのだ。――「古い! 古い!」私は、自分の考えかたを換た。私は、出来るだけ落つき、こういおう。
「なるほど、あのひとは宿って
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