し何なら夜だっていいさ、診療所はどうせ十時までだもの」
 ひろ子は、そういうやりかたでなく、もっと親たちの心持にも響いてゆくように、託児所の手不足からひろがったものもらい[#「ものもらい」に傍点]の始末をしたいのであった。夕方、迎えに立ちよるおっかさんの顔を見るなり、
「おっかちゃん! 六坊、きょう先生んとこへ行ったよ、目洗ったんだよ! ちっとも痛くなんかないや!」
 ぴんつくしながら子供の口からきかされれば、同じことながら母親たちが感じるあたたかみはどんなに違うだろう。
 沢崎がつかまえられているからばかりでなく、特に今そういう心くばりは母親たちの託児所に対する気持の傾きに対しても大切だ。ひろ子にはその必要が見えていた。大谷がいそがしい活動の間で、そこへ迄気がつかないのは無理ないし、大体、今度の応援につれて託児所として起って来ている毎日の様々の困難は、個人的な立話で解決されることでもないのであった。
「じゃ、とにかく何とかしますから」
 ひろ子は、やがて両手を膝に突ぱるようにしてゆっくり立ち上りながら云った。
「――今頃ふらふらして、あなた、大丈夫かしら」
「マアいいだろう、第三日曜
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