来ていた。組合の書記局へおいでよって云われたけど、私、職場の方が好きだ。また入りこむよ、そう云って、一時ここを手伝っているのであった。
下を向いて、こんぐらかった糸を不器用に、若々しい粗暴さで引っぱりながらタミノは、
「まだはっきりしないんだけどね」
間をおいて、
「臼井さん、待ってたのがやっとついたって、とてもよろこんでる……」
ひろ子は思わず首を擡げ、下を向いているタミノを見ながら、ペンをもっていない方の指で自分の下唇をゆるゆると捩るような手つきをした。タミノはやっぱり顔をつくろいものの上にうつむけたままでいる。
「――つくって……」
様々のありふれた推測が、ひろ子の胸に浮んだ。いずれにせよ、臼井と党の組織との連絡がついた、ということにはちがいない。
「だって、そのことと、あんたが、ここからかわるってこととは、別なんでしょう?」
タミノは直接それには返事をせず、自分自身の考えに半分とりこまれているような調子で、暫く経って呟いた。
「なかなか役に立つ女が少なくて、みんな困ってるらしいわねえ」
その言葉でひろ子には全部を語らないタミノの考えの道筋が、まざまざ照らし出されたよ
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